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ファイナンスとは(2)

前回、ファイナンスとは、リスクをとることだ、そのために何かすることだ、と説明した。また、いわゆる短期的な損得勘定だけ考えるPL脳とは違いがあるということを説明した。

さて、私はアメリカで会計士になり、財務諸表の監査にかかわってきた。

財務諸表とは、損益計算書(さきほどから言っているPL、私はP&Lと書くことにしている)、貸借対照表(これは英語ではBalance Sheetと呼ばれ、私はB/Sと書いて表すことにしている)、さらにキャッシュフロー計算書、の3つからなる。國貞克則さんは、朝日新書から「財務3表一体理解法」という、とても分かりやすい本を著しておられる。

厳密にいうと、P&LとB/Sは、複式簿記という取引という事象を借方と貸方という天秤の左と右のように、右と左の両方が等しくなるように、一つの取引事象を二つの側面から表す。

しかし、キャッシュフローは、そのような複数の取引から、現金の出し入れに関係している取引のみを取り出して、現金の増減、動きを表す。簡単に言えば、銀行の通帳、もしくはステートメントのようなものだ。

会計の面白いところは、実は、複式簿記、つまりP&LとB/Sの世界では、現金に関わらない取引が記録されていることだ。つまり、現金が動かなくても、帳簿には取引が記録される。例として、通常、売上とはそのようなことが多い。小売業では、商品を売ると同時に現金を受け取ることが多いが、それ以外では、商品かサービスを売ると、請求書を出すだけで、現金はすぐにはもらえない。このような場合でもP&L上は売上であり、B/S上は売掛金という権利を記録する。簿記や会計を学んだことのない人には、こういうことは理解しにくい。経営大学院で、いわゆるMBAという、ありがたい学位をもっている人たちでさえ、それも世界で超一流といわれる学校を卒業した人たちでも、理解していないことがある。

ファイナンスは、会計で記録された情報を利用するが、会計そのものではない。会計は、ビジネスにおける言語(共通言語)と言われることがあるが、会計にはビジネスを中長期的に考える上で、重大な欠陥がある。

その欠陥とは何か。

まず、第一に、会計の情報は、基本的に、過去の情報の蓄積である。たとえば、ある会社が資本金1億円で10年前に設立されたとする。10年間の間、資本金に影響を与える取引は起きていないとする。すると、10年後、B/Sを見ると資本金は10億円のまま。それを見て、この会社は資本金10億円の価値をもつ会社である、と言えるか。自明だが、そのようなことは言えない。それだけの資本金の価値が今あるかどうかはまったく分からない。現在投資されている価値の情報が更新されていない。

第二に、会計はリスクを明示的に表すことができない。さきほどの資本金1億円を、すぐに転売できる商品の在庫の購入に使うか、それともすぐには商品を製造することに使えない工場の設備の購入に使うか。どちらの場合も、B/S上は、1億円の資産として計上され表わされる。どちらが、もっとリスクがあるか。直感的には工場の設備の購入の方が、より多くのリスクがありそうだ。だからといって、すぐに転売できる商品の在庫の購入をすればよいというわけではない。

第三に、会計はリスクに応じた必要なリターンを明示的に表すことができない。さきほどの例で、すぐに転売できる商品は、通常大きな利益を生み出すことができない。なぜなら、他の誰でもできることだからだ。対比して、工場の設備の購入をして、商品の製造にのりだすことは、リスクはよりあるが、もし、まだ誰も製造したことのない商品を製造できるならば、より多くの利益を生み出すかもしれない。ここで、利益と言うのは短期的な収益(つまり売上)と費用(ここでは短期的な原材料費や労働コスト)との差である。リターンというのは、当初工場の設備の購入にかかけた1億円と、毎年の利益の比率である。もし利益が毎年1千万円でるとすれば、単純に言えば、リターンは10%、つまり1千万円÷1億円、ということになる。もし、商品をただ転売するだけで、100万円の利益がすぐでるならば、リターンは実に1%、つまり100万円÷1億円、となる。

この例で、リスクは大きくなるが、リターンが10倍になる、つまり1%が10%になる、ことは本当に良いことなのかどうかは別途考える必要があるが、私が言いたいのは、会計は、そのようなことを判断する考え方を提供しないということだ。

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