一般的な企業とスタートアップ企業の大きな違いは何でしょうか。
一般的な企業にはすでに商品やサービスがあり、継続している事業であれば、概ねどの年でも会社全体の利益がでている(ある年にはたとえ出ていないにせよ)というのが通常です。
一方、スタートアップ企業は、当初消費やサービスができておらず、当然、売上はなく、費用ばかりがかかって、赤字になっている状態にあることがあります。
ここで、事業を経営することを管理するための会計、つまり管理会計において、一般的な企業とスタートアップ企業では、事業・利益の状況に違いがあるため、何を重要視するかに違いが出てきます。
一般的な企業では、最終的な利益が出ることを前提として、費用を変動費と固定費に分けて、売上から変動費を引いた粗利益が、固定費と等しくなる損益分岐点というのを重要視して、損益分岐点を超えるように商品やサービスの個数(ユニット)を販売すべきだと考えます。
売上 – 変動費 – 固定費 = 0
( 売上 / ユニット – 変動費 / ユニット ) * ユニット – 固定費 = 0 となるようなユニット数を計算します。
例として、期間を1年間、もしくは1カ月と固定して、売上高が100万円、ユニット数が100、変動費が60万円、固定費が40万円とすれば、ユニット数100が損益分岐点で、そのユニット数を超えれば、利益が出るという考え方です。
一方、スタートアップにおいては、売上とユニットとの間にまだ固定された関係がなく、また固定費も常に変動するため、上記の一般的な企業における損益分岐点という考え方が使えません。
そこで、ユニットエコノミクスという考え方がされるようになったのでないか、と私は思います。
会計のことをよく知る専門家から見ると、このユニットエコノミクスというのは、もはや会計ではないとも言えるかもしれませんが、会計の期間や変動費や固定費と言った指標が使えない状況で、スタートアップのビジネスが軌道に乗りつつあるかどうかを判断するために必要な指標になったのでしょう。
ユニットエコノミクスにおける単位は、商品やサービスではなく、「顧客一人当たり」です。また、対象となる期間も1年間でも数カ月でもなく、顧客が顧客として留まる期間です。
売上に相当する考え方として、顧客生涯価値(LTV = Life Time Value)があり、変動費に相当する考え方として、顧客一人当たり獲得コスト(CAC = Customer Acquisition Cost もしくはCPA = Cost per Acquisition )があります。
またこの考え方の前提にあるのは、当該スタートアップ企業が、SaaS = Software as a Service型の事業であるということです。または、Subscription model(日本語で「サブスク」)型のビジネスモデルを行っていることも前提です。
SaaSの特徴は、スタートアップ企業が一旦ソフトウェアを開発するためにコスト(主に一回限りの投資、またはそれを償却していく固定費)を使うと、それ以降は、それほどコストをかける必要はなく、変動費に相当する部分は少ないという点にあります。
サブスクの特徴としては、顧客は一回きりの代金を払うのではなく、契約すると、月々固定の価格を解約するまで払い続ける点にあります。
直感的に、このようなビジネスモデルの下では、顧客一人当たり獲得コスト=CACをなるべく少なくして、顧客生涯価値=LTVをなるべく多くすることが、スタートアップ企業が事業を拡大して、最終的な利益を出すことに向かっていくためにはよいことがと感じられます。それで正しいです。
CACは分かりやすいです。例えば、広告に120万円かけて、何万人かの人に広告を出した結果、最終的に100人の顧客が得られるとすれば、120万円 / 100人 = 12,000円です。
LTVの計算はちょっと難しいです。例えば、顧客一人当たりの月々の売上(価格は)1000円とします。ただし、獲得した顧客は、毎月3%ずつサブスク契約を解約するとします。すると、ある月に獲得した顧客は、平均して顧客としての生涯は33.3カ月です。(詳しい説明は省きますが、1 / 0.03 = 33.3と計算できます。)よってLTV = 1000円 * 33.3 = 33300円です。
ユニットエコノミクスの定義は ユニットエコノミクス = LTV / CACですので、33300円 / 12000円 = 2.8
これは、言い換えますと、顧客一人を獲得するためのコストCACの2.8倍の収益を上げている、利益でいうとコストの1.8倍です。
また月々顧客一人当たりの売上が1000円で、CACに12,000円かかっていますので、売上の12か月分を顧客一人当たり獲得コストにかけたとも言い換えられます。
この数値が良いのか悪いのかというとはっきりした根拠はないのですが、概ね成功しているスタートアップ企業が、ある時点ではユニットエコノミクスを3より大きくした時点で、成長していけると考えられているようです。